新王者誕生とGSW王朝の終焉

19-20シーズンが開幕し1ヶ月、何を今更昨シーズンのファイナルなんて取り上げるのか、と思われるかもしれない。もうTORもGSWも最早別のチームではないか、と。

今シーズン、東西共に目まぐるしいほどの勢力図の塗り替えが起きた。昨シーズンなどまるで無かったかのように。

果たして本当にそうなのだろうか。GSW王朝は跡形もなく滅亡し、トロントに縁もないレナードがリングだけ奪い去ってしまった、ピリオドとしか形容の出来ないシーズンであったのだろうか。

少しプレーオフの復習をしつつ、今シーズンの開幕も含め考察をしてみる。

EASTERN CONFERENCE

まず、TORのファイナル進出を語るにはカンファレンスでの戦いに目を向けなくてはならない。

8年連続でファイナル出場していたレブロンがLALに移籍し、東は誰が勝ちあがるか分からない混戦の模様を呈していた。MIL,PHI,BOSなどファイナルに値するタレント揃いのチームがいる中、ファーストラウンドは順当に上位チームが勝ち進んでいく。

セミファイナルではシーズンMVPアンテトクンポを擁するMILはBOSを早々に破るも、PHIvsTORは7戦までもつれ込む熱戦となった。その中で歴史にも残る大逆転ブザービーターをレナードが決め、カンファレンスファイナルに駒を進めることとなる。

一見するとレナード1人にシーズンを決められたように映る。しかしゲーム毎に細かな修正を重ね、勝てるプランを練り続けたHCと、それを実現させる層の厚さが大きな要因であることも忘れてはならない。

そしてカンファレンスファイナルでは、2敗こそしたもののセミファイナルで構築した勝利への方程式を実行し、ファイナルに進出するに至ったのだ。

レギュラーシーズンではレナードがコンスタントに出ることは叶わなかった。シーズン開幕前に生え抜きのエースであるデローザンとのトレードでやってきたレナードに対し受け入れられないといった感情を持つトロントのファンは少なくないであろう。

しかしドアマットからスモールマーケットながら生え抜きのみでシーズンで高い勝率を誇るまで成長したチームの土壌が、プレイオフという過酷な環境でレナードを溶け込ませ、方程式を編み出すに至ったのだ。

WESTERN CONFERENCE

対して西は大方の予想通りの展開。王朝を築いていたGSWに対し4勝し得るチームは存在せず、KDのアクシデントをもってしても底力を見せつけファイナルへ進出した。

KDもファイナル途中に復帰し、全員が揃えばGSWの優勝は固い。誰もがそう考えていたであろう。既に走った王朝の綻びに気付くことはないまま。

一つその当時懸念として存在したのは疲労。東が4-2で終わってしまったため、KDの完治を待たずにファイナルが始まってしまったこと。そしてHOUとの第6戦は極めてタフな試合だった。どのチームより長いシーズンを5年過ごしてきたチームには酷過ぎるほどに。

FINAL

そうして開幕したファイナル。第1戦はTORがホームで勝利した。ここで重要なのがスコアリーダーがレナードでなくシアカムであったこと。彼がステップアップしたことで先手を取ったTORであった。

第2戦はGSWが盤石な試合運びを見せる。悪夢の3Qから逃げ切ることに成功した。しかし第3.4戦はGSWのホームにも関わらず落としてしまう。堅守速攻からの見事なパスワークでの得点は鳴りを潜め、レナードを止めることはできず、二桁以上の点差での敗北を喫してしまう。KD不在による攻守両方での負荷の増加からくる疲労に起因するものと考える容易い。

TOR王手で迎える第5戦、GSWはKD出場。しかしそこで違和感を抱いた人も少なくはないだろう。明らかに動きが悪い。しかし類稀なるシューティングスキルにより得点を量産するKD。開幕流れを掴んだGSWが楽々勝利すると考えていた。しかしここでKDがアキレス腱断裂。なんとか辛勝するものの世界トップのスコアラーの選手生命を脅かす大怪我に衝撃は隠せない。

そして第6戦、後がないGSWはスプラッシュブラザーズの一角クレイトンプソンが大爆発する。彼はいつも苦境に立たされるとステップアップする。次々とシュートを沈め王者の意地を見せつける。そして流れに乗っていた彼が速攻からレイアップに行くと着地に失敗。前十字靭帯を断裂してしまう。

明らかに手札不足となったGSW、結局逆転されTORが初優勝を飾った。

初優勝はレナードのものか

勿論MVPはレナード。チームトップの得点を取り、リーグ最強と謳われるディフェンスで優勝に大きく貢献した。

しかしこの優勝はレナードだけのものなのであろうか。

注目して頂きたいのは彼のゲームを追うごとに減っていった得点。これが意味することとは何なのか。

勿論スコアラーであるレナードを止めるべくGSWが対策したという見方もある。しかしそれ以上にファイナルを通じてTORというチームのカルチャーが変わっていったのではなかろうか。

以前のシーズンを考えてほしい。勝率こそ良くなっていったものの、プレイオフで苦境を打開するカルチャーがあっただろうか。レブロンに蹂躙されていたTORも記憶に新しいのでは?

今季のカンファレンスでも同じような状況が多々見られた。重要な局面でシュートが入らなくなる。トランジションでミスする。ディフェンスでの意思疎通が図られない。また日和ったか。そう感じるNBAファンも多かったのではなかろうか。

しかしそこで一人奮起し続けたのがレナードであった。オフェンスが停滞すればアイソレーションで何人に囲まれていてもシュートをねじ込み、ディフェンスが崩されれば超人的な守備を見せチームの崩壊を防いだ。

話は彼がトレードでTORに移籍した時に移り変わる。彼は1年だけの言うなればレンタル、来シーズンまでの繋ぎに見えてもおかしくないようなアセットでトレードされた。しかもTORはこのトレードを実現させるために指名権というスモールマーケットにとってかなり重要である財産を手放した。実現するか全く確信の持てない、怪我明けのレナードに懸け悲願の初優勝を果たすために。

ギャンブルには勝った。しかし結果彼はチームを離れ、残されたトロントにはチャンピオンリングの他には荒れ果てた地が広がるのみである。ドラフトで有望な選手を獲得することは叶わず、トレードに使えるアセットも持たず、また暗黒のドアマットに沈むことしか考えられない、そんなやせ細った土地に逆戻りしたのだ。

レナードを死神と称するメディアも見られた。素晴らしい個人能力を持つ彼が移籍を繰り返すことは行く先々の資源を枯渇させるには十分すぎるほどなのだ。

話を戻そう。ファイナルで試合を追うごとにどのような変化が見られたか。苦境でレナード便りだったチームの雰囲気が変わったのだ。今まで困ったらレナードであったこのチームが、ラウリー、ヴァンフリート、シアカムなど他の選手がその重責を請け負うようになった。

今シーズンを見てみよう。先ほど形容したような荒野のようにTORというチームが映るであろうか。

優勝を経験したチームは目を見張るようなハイライトや優勝候補となりうるような強さは見られないものの、シアカムを中心とした若手が躍動し、ベテランがそれを支える、美しいバスケットを展開してはいないか。

初優勝とはただチャンピオンリングだけを齎しただけでなく、唯一のカナダに籍を置き、アメリカ出身の選手から敬遠されるチームに勝利の文化を植え付けていったのではないだろうか。

ギャンブルに勝った。という表現は正しいのであろうか。

王朝は滅亡したのか

三連覇を逃し、KDは移籍し、トンプソンはシーズン絶望、優勝に貢献したメンバーの多くもチームを去っていった。王朝の終焉を否定するにはあまりにネガティブな要因が多すぎる。

ファイナルでGSWが敗北した際、一種の喪失感を抱いたNBAファンは少なくないのではなかろうか。

歴史的挑戦である三連覇がこれほど残酷な事故で果たされず、歴史上最も強いチームの一つであるこの王朝が、ここまで儚く瓦解していくのか。そして王朝が築かれるまでのチームの歴史を見守り続けたオラクルアリーナも最後、新アリーナに移行した。まるでこの王朝が夢であったかのように、殆どが残らずGSWの挑戦は終わった。

では今シーズンのGSWを見てみよう。酷い有様である。昨シーズンが嘘のような攻守における秩序の無さ。プレイオフは夢のまた夢、最下位争いに名を連ねると言われても否定のしようがない。

そして残されたチームの魂ステファンカリーも骨折し、いよいよファン以外の誰もが見放した、その時である。ルーキーのエリックパスカルが34点の大活躍でPORを破ったのである。そして次の試合はアレックバークスが28点、次にオールスターガードであるディアンジェロラッセルがキャリアハイの52点(執筆時2019/11/9,当日の出来事である)。

優勝チームの王城は跡形もなく消え去った。しかしチームのカルチャーが新鮮な空気となり、豊かな土壌となり、若い芽を育てるのではないだろうか。今シーズンは絶望のスプラッシュブラザーズ。しかし来シーズン戻った彼らが芽吹いた若手を束ね、王朝の復興を目指す美しい復活劇を、期待するだけならバチは当たらないと思いたい。